たしか2004年の終わりごろ、私は初めてTA101を受講しました。
国際TA協会認定の有資格者が実施するこのコースは、世界中でその品質基準(時間数、項目、講師の水準)が同じになるよう、統一して定められています。
私はNLPを学んだ研修会社でTA101コースを知って受講したのですが、その2日間のコースである衝撃的な場面に出くわしました。たった数分の出来事でしたが、私がTAを学び続けるきっかけになったものなので、今回はその話をしようと思います。
名づけて〖おにぎり早く食べてね!事件〗
受講初日はなにも問題なく進み、とても楽しかったです。
TAの構造化された概念に関して非常に面白く感じましたし、数分で行う小さな実習も参加者同士で楽しめました。
ことは2日目の朝に起こったのです。
昨日とは違う席に座ろうと思い、半円形になった列の、講師側一列目の一番端に陣取った私は、昨日書き留めたメモとにらめっこしていました。
徐々に参加者が到着し、あと数分で始まる……という時、2つとなりの席からにぎやかな声が聞こえてきました。声の主は大学生2人組で、手にはコンビニおにぎりとペットボトルのお茶……モグモグ+ぺちゃくちゃ のフルセットです。
“ええ~~っ、もうすぐ始まるのに何やってんの!!(# ゚Д゚)”
私の心はアッという間に[私が講師として居る企業の研修室]にワープし、私の表情はこわばり、その非常識な大学生二人を睨みつけていました。
と同時に、“もうすぐ先生が来る、この子たちのせいで嫌な空気になったらどうしよう……”と私自身がある種の恐れを抱いていました。
そしてそして――
部屋に入ってきた講師は、その二人を発見すると破顔一笑
「あら! 今ごろ朝ごはん? あと2分で食べてね~~~(関西風味で)」
(二人はアッとなり恥ずかしそう、周囲はクスクスクス)
私はあっけにとられました。
講師のその言葉通りに、若い二人はパクパクとおにぎりをほおばり、予定時間きっちりに講座は開始されたのです。でもって周囲はみな笑顔です……
なぜ、この先生は腹が立たないのだろう?
なぜ、あの二人は素直にそして嬉しそうに反応したのか?
なぜ、世間知らずな彼らのマナー違反を誰も指摘しないのか?
もちろんこの時点で、昨日習ったばかりの『やり取り分析』が出てくるわけはなく、私の理解も目の前の出来事と概念が一致するまでには至っていませんでした。
講師: NPから(刺激)「(笑顔で、声は高め、トーンは優しく)あら? 今ごろ朝ごはん?」
学生: NCで反応 (照れくさそうに頷き)
講師: Aから(刺激) 「あと2分で食べてね~~~(関西風味で)」
学生 Aで反応 (ダッシュでおにぎりをほおばる、そして完食) →on timeで講座開始
周囲: NP⇔NCのやりとりに刺激を受けて、ほのぼのした内的な反応(見守っている)
今となればその謎は一目瞭然ですが、その場面の分析は後になって「おお~~そういうことかいな!!」というぐあいに合点がいくわけです。しかしその時の煙に巻かれたような違和感は、その日一日私の心に影を落としていました。
2日目はTA理論のメインである「脚本分析」を中心に学習が進むので、私の意識も脚本の謎解きの方に向いていきました。特に父と母の関係性、母方の伯父と伯母の影響など、非常に興味深い[私の成り立ち]が徐々に明らかになったことで、驚きと感動とちょっぴりの切なさで心がいっぱいになったと記憶しています。
(きっと読者の皆さんにも同じ経験があるのではないでしょうか)
2日間を無事受講し修了証をもらってからも、日本語で書かれた交流分析関連の本を数冊購入し読んでみました。更にアドバンスコースなるものが大阪のとある場所で開催されているというアナウンスを覚えていて、『よっしゃ、もっと習ってもっと謎解きしてみるか!』というような、今から思えばですが、ある種勢いだけの熱量でTAをもっと学ぶことにしたのでした。
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これが、私がTAを学び続けるきっかけになった小さなエピソードです。
この講座では、受講者それぞれが自分の脚本におけるネガティブな部分と向き合い、時には苦しく涙ぐむ人もいたと思います。もちろん私も、自分を分析していく途中では、“あらま~、嫌いなお父ちゃんなのに、けっこう影響を受けてるなあ……”と苦笑する場面はありました。が、それも分析事例として割と客観的にみることができていたのだと思います。
心理学を学ぼうとする人の出発点は、大きく二分化されるのではないでしょうか。
自分の抱える問題に向き合おうと勇気を振り絞って参加される人たちと、特定の心理学の学術的・理論的背景や実践のフレームワークを学びに来ている人たちの2通りです。
当初、私自身は後者だと思っていました。
前回書いたように、自分の成り立ちを解明したい気持ちは十分にありましたが、そもそもNLPや他の心理系講座を受講したのは、組織への対応、キャリア支援・キャリアカウンセリングの腕を磨きたかったからなのです。その当時は仕事の数も順調に増えていましたし、家庭では家族はそれぞれ元気に忙しくしていました。ですから私の受講理由は「効果的なフレームワークがあったら習得しよう」程度のものだったのです。
それが、全く予想外に“全集中!!”でTAにハマっていく事になるのですから、いや、世の中何が起こるかわかりません……苦笑
次回は、この出来事のもとになったTA101の学習効果について書いてみようと思います。