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ヨシタケシンスケの絵本をTA視点で読んでみると 

降旗浩康

ヨシタケシンスケさんは、現在日本で最も売れている絵本作家さんの一人です。

2013年に『りんごかもしれない』を発表して以降、20冊以上の絵本を発表し、累計460万部以上売り上げています。

ニューヨーク・タイムズの最優秀絵本賞やボローニャ・ラガッツィ賞を受賞し、世界的に活躍しています。

私は、彼の発想の豊かさや言葉のセンス、そしてそれを彩る絵の楽しさがとても好きです。

これまでに多くの作品を発表していますが、個人的には『こねてのばして』(ブロンズ新社)が好きです。

テンポよく、リズミカルで、意味があるような無いような、ただただ C(Child)を刺激しワクワクする気持ちを高めてくれます。

この先どうなるんだろうと、次のページが楽しみな絵本です。

TV出演したヨシタケシンスケさんを拝見しましたが、その話しぶりからは、写真でみるのいかつさ(失礼! m(_ _)m )は感じられず、ちょっとおどおどしたシャイな感じを受けます。

トーク内容は、発想力豊かで、聞いているととても楽しく、ユーモアセンスにあふれ、そう考えるかぁ、とひきつけられるものでした。私とは違う視点で物事を考えているのがわかります。

当たり前のことですが、私とヨシタケシンスケさんは育った環境も年代も違います。

私とは準拠枠が違いますから、考え方も見方も当然違います。

これはヨシタケシンスケさんに限ったことではなく、絵本作家さんそれぞれに絵本に対する想いがありますから、それぞれの準拠枠も含めて絵本に反映されます。

今回は、ヨシタケシンスケ・ワールドを、TA視点を交えながら私なりに考えてみます。

 

ヨシタケシンスケさんの作品の魅力 

ヨシタケシンスケさんの絵本の魅力を私なりに考えてみました。

まずひとつめは、思わず「クスッ」と笑ってしまったり「にやり」としてしまったりする面白さです。

大笑いするのではなく、ちょっとニヤリッとする感じです。

ヨシタケシンスケさん自身、楽しいということが子どもにとって大切であり、同時に大人が読んでも楽しいということを常に意識しているそうです。

自分が興味のあるものや面白いと思うものをテーマに、自分が知りたかったことや小さい頃の自分を喜ばせられる方法を考えているそうです。

誰かを喜ばせようとせず、自分が面白いものを書けば、ほかの人も面白いはず。

この考え方は「他人と過去は変えられない」という、TA心理学の考え方にも則していますね。

ふたつ目は、だれもが持っている普通の感覚が感じられるところです。

ヨシタケシンスケさんの絵本を読んでいると、「そうそう、それそれ、わかる~!」と、共感を感じる箇所が随所にあります。

それは、

 「背中ってかゆいけど、かゆいところまで手が届かないよね」 

 「脛ってぶつけたら痛いよね」 

 「女性にギュッとされてら嬉しいよね」 

というような、私が普段感じている、日常生活で体験している感覚です。

この共感できる感覚は、「絵本」というメディアを通して言葉とイメージで提供され、普段使っていない、埋もれていた C(Child) を刺激し、活性化してくれます。

絵本からは、人生のいろいろなタイミングで、その時々にあったストロークを受けることができます。

ヨシタケシンスケさんの作品は、私にとって、欲しいストロークを与えてくれる絵本だと言えます。

 

ヨシタケシンスケさんの考える絵本の選び方 

絵本は表現の幅が広く、幼児が読んで分かるようにと、いろいろな事が試されています。

私は「落ち」が大好きです。普段の会話でも「落ち」をつけることをいつも意識しています。

絵本には落ちのないものもあります。

また、ストーリーがあるようで無いものもあります。

大人は、落ちがなかったり、ストーリーがよくわからないと手に取らないそうです。

まさに大人の準拠枠で考える、大人の基準ですね。

子どもの頃、特に幼年期の感じる力(五感)は大人よりはるかにすぐれています。

子どもは、見たもの聞いたものを、乾いたスポンジのようにどんどん吸収して覚えていきます。

何かを判断して覚えるのではなく、ただただ覚えていきます。

言葉は聞いた音とイメージとを結び付けて覚えていきます。

子どもは楽しいか、面白いかどうか、興味があるかどうかしか思っていません。

成長するにつれ、「意味」や「価値」などが付加され、善悪の判断が加わってきます。

おとなが自分の準拠枠で判断を加えたら、子どもの成長にも影響を及ぼします。

準拠枠を押し付けすぎると、子どもは自分の可能性を制限し、親の枠組みにとらわれてしまう可能性があります。

おとなにとって意味がないことでも子どもはおもしろいと思い、ずっと遊ぶことがあります。

何がそんなに面白いんだろうと思うようなことを、大人がうんざりするくらい繰り返すこともあります。

子どもは子どもの感性で「よくわかんないけど楽しい!」とか「絵がかわいいからまた見たい!」と思っています。

「売れているから」「有名だから」とかまったく関係ありません。

面白いと思えば最後まで読み、つまらなければすぐに違うことをします。

なんら制約なく行動する子どもは、とっても素直なんです。

子どもが楽しそうにしているもの、それを選んであげることが大切です。

子どもの様子をよく見て、親の価値判断はちょっと置いておくようにヨシタケシンスケさんは言っています。

 

作品紹介『あんなに あんなに』(ポプラ社) 

この絵本は見開きのページの中に

「あんなに○○なのに」「もうこんな」 

とういうように、

あの時こうだったのに、今はこんな風になっている

という場面が繰り返し描かれています。

この絵本は言葉が少ない分、言葉の裏の意味(裏面)を感じます。

例えば、

「あんなにほしがっていたのに」「もうこんな」 

買うときは泣いておねだりをするのに、今はそんなおもちゃがたくさん部屋にちらばっている

「もうこんな」で描かれている絵からは、

”せっかく買っても大事にされる時間は短いなぁ” 

”こんなに粗末にするんだったら、次はおねだりしても買ってあげない” 

というように、どうせこうなるんだから次は……、というような、どちらかというとネガティブな気持ちが私は浮かんできます。

「あんなにちいさかったのに」「もうこんな」 

このページでは小さい頃の絵と、少年になった絵が描かれています。

少年の絵からは、

”もうこんなに大きくなったんだねぇ” 

と、ちょっと感慨深い気持ちが伝わってきます。

このように、言葉だけでは足りない部分を絵が「気持ち」を補って表現しています。

コミュニケーションの主導権は受け手にありますから、感じ方は人それぞれ。

いろんな解釈があると思います。

私は、「なるほど~!」「そうそう」「そうだよね~」っと共感できる部分が多くあります。

もちろん、ヨシタケシンスケさんが思っていることとは違う受け取り方をしているかもしれません。

でも、この絵本からは、親の立場で子どもの成長を思ったり、

自分の子ども時代を振り返って、親のことを思ったり、

どちらでも、」いろんな受け取り方ができます。

受け取り方によって、P(Parents)を意識したり C(Child)を意識したりどちらでもできるでしょう。

私の場合、何回か読むうちに、第三者的に A(Adult)で分析めいた見方をしたりしています。

ちょっとクスッとしてしまうような場面がいろいろ出てくる絵本です。

 

ヨシタケシンスケさんとは

ヨシタケシンスケさんの人柄や考え方をみると、発想の豊かさは NC が高く感じます。

また、子どもに対する愛情があふれ NP の高さも感じます。

そのバランスを A でコントロールして、うまく絵本で表現していると思います。

私は、ヨシタケシンスケさんの感性から描かれるものに悪意を感じることはなく、人を否定するようなネガティブさは感じません。

また、ちょっと社会的に問題となっているようなことにも、ユーモアを絡めて考えさせる投げかけています。

ヨシタケシンスケさんの作品は、ストロークを与えてくれる内容も多く、C を刺激して、Aで思考するのに持ってこいの大人におすすめの絵本作家さんです。

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