私は今、一般財団法人 絵本未来創造機構のeq絵本講師®シニアインストラクターとしても活動をしています。
私は「絵本」と出会って、人生が大きく変わりました。
私自身は子どもの頃、絵本を読んでもらった記憶はありません。
家にも絵本はありません。
母に子どもの頃絵本を読んでくれたのか聞いてみました。
答えは「読んでないねぇ」でした。
そんな私でも、幼少期の記憶として覚えている絵本が一冊あります。
その絵本は「スーホの白い馬」です。
この絵本は、母に読んでもらったから、というわけではありません。
保育園の頃、病院に入院していた時があり、その時に保育園の先生がお見舞いに届けてくれたものでした。
私の記憶の中では、絵本の物語よりも表紙の絵、赤い服を着た男の子が白い馬を抱えている姿が、鮮明に記憶に残っています。
この一冊以外、思い出される絵本はありません。
幼少期、絵本との関係はその程度の私でしたが、3年前に「絵本」と出会ってから、絵本の魅力にはまりました!
◆絵本の魅力
〇心が癒される
絵本の多くは、ハッピーストーリー、サクセスストーリーになっています。
そして、やさしく、あたたかい言葉で包まれています。
絵本を読むと、「言葉」が心のドアをノックします。ときには、いきなりドアが破られることもあります。
ドアをノックされていると感じているときは、何か違和感(刺激)を感じているときです。
何だろう? なんかモヤモヤする。ムズムズする。
そんな、ちょっと気になる感覚が残ります。
何回か読んでいると、ノックが大きくなり、ドアを開けたくなります。
勇気を振りしぼってドアを開けると、蓋をしていたり、鍵をかけていたりした自分の感情が見えてきます。
それは嫌な感情、触りたくない感情かもしれません。
でもそれは。自分にとって、とても大切な感情です。
絵本を読んで、開いたドアの先にある感情を見つけたとき、その感情と向き合える自分がいます。
そして、その感情を受け入れることで、心豊かになります。
絵本によってドアを開けるとき、心の準備ができています。
なんとなく、うすうすドアの先にあるものを感じつつ、これまでは見ないようにしたのかもしれません。
ですが、ドアを開けるときには、その感情を確かめる勇気を得ています。
絵本は、人の心を癒したり、揺さぶったり、そして勇気を与えてくれたりします。
以前、絵本作家ヨシタケシンスケさんがTV番組でおっしゃっていました。
「絵本は子どものためだけでなく、年齢を重ねて改めて読むとそこに新たな発見がある」と。
その時紹介されていたのは佐々木マキさんの『やっぱりおおかみ』でした。
ヨシタケシンスケさんにとってこの絵本は、衝撃を受けた大好きな絵本だそうです。
「やっぱりおおかみ」を子どもの頃に読んだときは、時折オオカミが発する「け」という言葉に「『け』ってなんだろう」と思っていたそうです。
それから何年もたち18歳の頃改めて手に取る機会があり、その時に「『け』ってそういう意味だったんだ」と意味が理解できたそうです。
子どもの頃は絵が好きで何回も読み、おとなになってからは言葉を理解し、新たな発見がある。
絵本には、世代を超えて、いくつになっても人が楽しめる要素があります。同じ絵本でも、絵を楽しんだり、言葉に感動したり、人それぞれの楽しみ方があります。
私は子どもの頃、絵本を読み聞かせしてもらったり、自分で読んだりした記憶はありません。
共働きだったので、両親にはそんな時間もなかったのかもしれません。
そんな私にとって、今、絵本は「こころを癒す」ものになっています。
絵本を読むと、笑ったり、クスリとしたり、ニヤリとなったり、涙があふれたり、言いようのない感情が、心をざわつかせることがあります。
そのひとつひとつ、すべての感情を受け止めることで、私自身の気持ちが整理され、心が豊かになってゆきます。
そして、尖っていた部分は丸くなり、身構えていた盾矛を収め、凸凹な道の穴ぼこを埋めてくれます。
絵本で使われる優しい言葉や表現は、自然に心も優しい気持ちで包んでくれます。
特別なことをすることなく、絵本を読むだけで心安らかな気持ちになれます。
絵本からストロークシャワーを浴びることができのです。
〇絵のすばらしさ
絵本には「ストーリー」と「絵」があります。ストーリーを読むことで、言葉から刺激を受けることもありますが、「絵」を観るだけで感動を呼ぶ場合もあります。
長谷川義史さんの『みどりのほし』は、ページをめくった時に、心がゆさぶられる感じがします。
長谷川さんの描いた「絵」は、一見すると子供が書いたような稚拙な印象を受けるかもしれません。
でも絵本になったとき、その絵を見ると、主人公と一緒にその場面を味わっているような感覚になります。
林木林さんの書かれた文章に、長谷川義史さんの絵を重ねると、文章の世界観がぐーんと、大きく拡がっていきます。
読みながら、そして絵を見ながら、頭の中では文字で表現されている以上のイメージが拡がります。
加藤休ミさんの『おさかないちば』は、お魚が活き活きと描かれています。加藤休ミさんの絵はクレヨンとクレパスで描かれています。
描かれている魚たちは、本当に目の前にいるような存在感があります。
図鑑がなくてもこの絵本でお魚の説明ができてしまうくらい、きれいに繊細に描かれています。
クレヨンだからこその迫力も感じます。
『ウェン王子とトラ』という作品があります。
中国生まれで現在パリに在住している、チェン・ジャンホンさんが描いた絵本です。
描かれている絵は水墨画の手法を使って、微妙な色合いや繊細でとても迫力のある絵になっています。
この絵本で描かれるトラの表情は、野生そのものの迫力を持ったものがあるかと思えば、子どもを見守る母親のような慈しみを持ったものもあります。
背景の絵は、中国を連想させる迫力のある空間をイメージさせてくれます。
1ページ1ページがまさに芸術作品として、画集になっている感じです。
〇人間力を育てる
絵本を読むことや、読み聞かせをしてもらうと、次のような利点があると言われています。
・ボキャブラリー(語彙力)が豊かになる。
・優しい言葉遣いを学べる。
・いろいろな世界を疑似体験できる。
・様々な国やひと、生活、いろいろな職業、考え方など多様な世界観を知ることができる。
・想像力や創造力が豊かになる。
・親子の絆が深まる。
など……。
その他にもいろいろあると思います。うち一つに、生きていくために必要な力を育てる効果があります。
特に幼少期に絵本をたくさん読むこと(読み聞かせをすること)は、成長期の子どもの脳を大きく育てます。
2015年にKUMONが行った東大生向けの大学生意識調査によると、親にしてもらって感謝していることの№1は「本の読み聞かせ・いっしょに本を読んでくれたこと」で、4割の人が回答しています。
絵本を読み聞かせれば学力が上がるからよい、ということだけではありません。
絵本を読み聞かせることは、親子の共通の時間を持つことができます。
この、親子で一緒に過ごす時間は子どもにとってかけがえのない時間で、安心とやすらぎを得られる時間になります。
また、お母さんに見守られている安心感は、自分に向き合ってくれている、認めてくれているという自己肯定感を高める効果もあります。
自己肯定感が高ければ、自分の決断に自信が持て、仮に失敗しても自分で考え次のステップに進むことができるのです。
◆TA心理学からみた絵本
絵本の素晴しい効果はお分かりいただけたと思います。
絵本は、幼少期にたくさんの種類をできるだけいっぱい読んであげることが良いとされています。
6歳頃までの子どもは、大人のように物事を良い悪いという視点でジャッジしません。
自分が注目されているかどうかで判断します。
この頃の子どもは五感が敏感で、見たこと、聞いたこと、触ったもの、感じたことを全て吸収します。
この時期に親から受けた影響は、その人の後の人生のベースをつくると言われています。
それは、直接言葉で言われたものもあれば、非言語の態度や雰囲気で伝わるものもあります。
育った環境も大きく影響します。生活習慣や食べ物や味付けの好みなどは、子どもの頃の体験、経験が元になっています。
記憶にあるわけではないけれど、なんとなく自分の好きなものや、癖なんかも、小さい頃に潜在意識に刷り込まれたものが多くあります。
TA心理学では、その頃身についた自分の行動の原点を「人生脚本(単に、脚本とも言います)」と言います。「人生脚本(脚本)」とは、人は生まれてから死ぬまでのドラマを演じている、という考え方に基づいた表現です。
脚本は、自分で描いた人生のシナリオ、無意識の人生計画である、と言われています。そして脚本は、6歳~7歳くらいまでに要素・要因を集め筋書きを決定すると。
この時期に、親の枠にはまったもの(親が知っていること、親の常識)だけ与えていると、子どもはその範囲の経験しかできません。
子どもの世界観を拡げるためには、現在、過去、未来、空想や現実世界、動植物や乗り物など実際にあるもの、ハッピーストーリーやサクセスストーリー、喜怒哀楽に富んだもの、自然の営みなど、あらゆるジャンルを大量に読み聞かせると効果があります。
そうすることによって、子どもの引き出しはどんどん増えていきます。
引き出しの中身をジャッジする力は、その後の成長の過程で養われています。
子どもの脳は大人が考える以上にスポンジのように吸収力が良いのです。
大人の基準で判断する必要はありません。
もし、それでも何か基準が必要だとお考えなら、自分が伝えるのに抵抗を感じるもの、不快になるものを避けるのが良いかもしれません。
親のネガティブな気持ちは、非言語で子供に伝わっていきます。
大人でも言葉とは裏腹に、雰囲気で相手の感情を読み取ることがあると思います。
子どもも同じです。むしろ、大人よりも敏感かもしれません。
言葉で直接伝えなくても、その家特有のルールが伝わっていくのは、子どもが自分で感じ取っているからなのです。
皆さんもご自身の「普通」が他の人の「普通」ではないことを、経験したことがあるのではないでしょうか。
脚本を生きやすいものにするためには、幼少期(6歳くらいまで)に絵本の読み聞かせをすることがとても効果的です。
そして、親の狭い世界の枠にとどまらず、もっと広い世界を疑似体験することにより、その後の人生をより豊かなものにしてくれます。
他にもいろいろな効果が考えられますので、また別の機会に書きたいと思います。