TAでは契約を駆使する
こんにちは、青沼です。
新型コロナ感染症のワクチン4回目接種を無事に終えて、秋からの活動に少し安心感を持っている今日この頃です。
さて、今回は、4月の企業研修の様子から拡大して、多くの企業研修の現場でTAを活用する利点について、事例をあげてつらつら書いてみます。
描き方は、before→after ってやつで、現場のアルアル(大体はネガティブなこと)→TAを学び実践してたからええ感じ……(*^^*) てな要領です。ぜひお付き合いください。
今回のお題:TAでは、現場に応じて契約(contract)を駆使する
★事例:
社員200人、中堅どころの制服製造メーカーでは、これまで「人材教育」にコストをかける余裕がなくまたそこに注力する人材が不在で長年過ごしてきていました。令和になり新社長が就任。今年に入り総務部門に研修を計画することを指示。コンプライアンスの問題やハラスメント対策などを踏まえて、現場の人間関係やコミュニケーションの改善向上を喫緊の課題として計画を立て、で、縁あって私に依頼がありました。
打ち合わせを2度行い、非常に現実的で着実な計画を立てて現場に臨みました。
例えば、
・管理的契約の側面…対象者は2グループに編成。業務への配慮と人数を分散することで、講師と受講生,受講生同士のコミュニケーションをより円滑に行なえるような工夫。
・専門的契約の側面…対象者は「将来を期待されている現場のリーダー層」であり、彼らのリーダーシップの機能を高める目的があることを明記する。また講師は、その目的の為に十分な資料と分かりやすい/明白なアセスメントを活用する。など
そして、とても大切な部分ですが、
・心理的な(契約の)部分についても、まず打ち合わせ時に企業側と講師は、できるだけ不安点や疑念を開示したうえで、“現実的な目標値”を打ち出して当日を運営する。
ということをやりました。また対象者への案内もできるだけ早く掲示してもらいました。
ここまでは、研修講師としてある程度経験を積むとできることですしTAを学んだから……という話でもありません。
しかし、現場の実情はお天気と同じで、常に晴天とはいきません。時にはどんな良い材料をほり込んでも凪のままで、「あら? 今日私は何かを見落としていたのか?」ということもあれば、時には大雨・大風に襲われるなんてことが過去にはありました。例えばですが、
● 管理職同士が反目し合い、現場のもめ事を研修に持ち込み口論になる
● 研修の内容が「自分の仕事には関係ない」と最後まで主張し続ける
● グループ討議の間ずっと、自分が“組織の犠牲者”だと愚痴る
とかは、不調律ぎみの研修アルアルです 苦笑
どんなに準備万端で登壇しても、当日その場にいる全ての人間が織りなす「人間模様」を事前にコントロールすることは難しいことです。ですから、人材教育・訓練の場は常に一期一会。良くも悪くもその場に起こる出来事を〖学習の目的にあった形でどう活用するか〗が講師側の腕の見せ所となります。
そこでTA理論の汎用性の高さが現場に活かされてきます。
1960年代~70年代、エリックバーンを始めとするTAの理論家たちは、さまざまな形で講演や講義に出講しTAの更なる普及に活動域を拡げました。その際、やはり上記のような現場の“ごたごた”は、起こっていたようです。
その頃、ファニータ・イングリッシュ女史が、非常に短い論文を投稿しました。
『THE THREE-CORNERED CONTRACT』 3つの角/コーナーの契約とでも訳しましょう。
そこには、正三角形の図が描かれていて、頂点にはgreat power、底辺には私(講師・指導者)とあなた(参加者・出席者)。三角形の底辺には〖ここでの私達の契約〗と書かれています。
ファニータは、現場での2者、つまりその時間を共に過ごす講師・指導者と参加者の今ここで交わす契約の重要性を説いたのです。
いったい私達はこれから何をしようとしているのだろうか?…
企業内研修は当然ですが企業側が主導するものです。その思惑・決定権は会社側にあり、受講生となる社員側にはほとんどありません。そのため、本来学習者中心で主役となるはずの受講生がなんだか置いてけぼりを食らったような状況で当日を迎えることが多いのが現実です。
年間計画を立てて順当に開催できる体力のある組織ではなく、いままでやってこなかったのに、必要に迫られ急遽決定したような研修。そこに(業務負荷が高い時に限って?)招集されるとなれば、それは社員のための研修ではなく、経営者の満足度をあげる研修なんじゃないか、または自分の不出来を指摘されるようなものではないか……という疑念や不安が、まず最初に湧いてくるのは容易に想像できます。
だからこそ、その状態を予測し見越したうえでこちらも準備し、実際の現場で彼らと〖学習は変化すること〗について対話することが重要だと理解しています。
ファニータは「Child-Child」の自我状態で沸き起こる言葉をお互いに自己開示していくことで相互理解につなげていくことを勧めています。
例えば私がある特殊な専門職の会社に呼ばれたときは、「私は今日の内容についてはココの誰よりも勉強してきましたが、皆さんの○○の部分は全くの素人です。お互いに教え合い学び合うことができますね!」(*^^*)というように、知ったかぶりをせずに過ごします。
また、ある会社の幹部が勢ぞろいしたような研修では、「経営のベテランがお揃いですから、私は今日は少しナーバスになっています。と言うのも……」と虚勢を張らず卑屈にならず、自分の内なるChildが感じていることを本音で伝えます。
そうすることで、つぎにどんな良いことが起こるかと言うと…
「私は○○が重要だと思って必死でやってきましたが、今日は新しいこと(その講座の概要を指す)を学べると分かりワクワクしてきました。」とか、「うちの会社は、見た目が猛者ですが、心はチキンです(本人ママ)。先生の方がよっぽど怖いです。弱点を見抜かれていると思うと……」一同(笑)
というような、ええ塩梅の空気になってきます、これほんとの話。
各自が持っている教育研修というイメージには、過去の体験に紐づいており、多種多様の感情の経験が含まれている。参加者は、その多種多様なものを今この時間に持ち込む可能性が高い。
ということを踏まえて、ポジティブな感情・期待とネガティブな感情(陰性感情)・不安要素を、できるだけ早い時期に自己開示してもらっておくことで、講師側の安全配慮がしやすくなり、TAでいう“許可・保護”が行き届き、必然的に講師の効力も上がる。
一見、講師側が先に弱音を吐いている、自虐ネタのように聞こえてはいけません!上位者としての立場を取らざる負えない講師側が、先に「ちょっとだけ本音をさらけ出す」ことで、講師の人間味を感じてもらえ、受講生との心理的距離をグンと近づけることができ、その現場をスムーズに次の場面に集中させることができるのです。
ですから、この場面で最も重要なことは、その発言やこの時間をどういう態度・姿勢=OKコラルのどのポジションで発信するのかということ。
これがTAを活用できる人とそうでない人の違いといえるでしょう。
さて、最初に提示した会社の研修の場面に戻りましょう。
ということで、私は教育のTAを自然な形で実践し、現場は和やかな雰囲気でスタートしたように見えました。
・会社側挨拶(グレートパワーは誰かを示し、受講生への期待を明確に表現する)
・テーマの確認と具体的概要,時間の配分予定など(目的と成果目標の具体化)
・講師自己紹介と研修の場でのグランドルール(成果を出すために相互でルールを決めておく。もちろんこれも契約の概念の活用)
・そして受講生の自己紹介と自己が認識する課題について。
出だしがスムーズであればあるほど、上記の“自己の課題や学びたい点”についてより現実的な話が出やすくなります。ここで講師は生身の彼らのニーズをある程度押さえていくことができます。
「できるだけ、部下と何気ない話をしておきます。日ごろが大事と思っています。」(実践していることを現実的に表現)
「はっきりと伝えるようにしないと、こちらの言ってることが伝わってなくて後で困ることが多いです。どうしたら…かを学びたい」(ニーズが明確)
「歳上の部下がいて仕事のことをよく知っているが、反抗的で難しいです」(実際の問題)
そう、そういう感じ。良い感じ。現実、みんな工夫したり悩んでいるんだよ~~
しか~~し、嵐は突然にやってくることも! (;・∀・)
初回、2つ目のテーブルのある男性の受講生は、やや固い表情で言葉少なく言い放ちました。
「仕事の指示はしっかり出しています。それ以外のことは話しません。そういうやり方です。」
流れを突然止められたような爆弾発言で、周囲がざわつきます(後部の総務担当者が固まる……、次に発表する人が唾をごくんと飲み込む……)。
TAを学んでいない頃の私なら、彼の発言に対して感情的に反応して自身のライフポジションであるI am not OK You are OKのポジションに動き、“お~~!このタイプか…↓”という感じでハマったかもしれません。またはCPが過剰な反応を起こし、“だからこの会社は△▽なんだ…”というような、現実から離れた批判をしていたかもしれません。
しかし、実際の私は、彼のこの発言をとても冷静に聞いていたし、ある意味では好意的に捉えていました。
彼は本音で話している。好戦的でなく実体験で話しているのだ…
少し悲しそうだな……
とも観察して、その発言と、実際の現場でそうすることによって、自分を(何かから)守ろうとしている彼を、私自身の中でずっしりと受け止めていました。
もちろん言いたいことは山ほどありました。良いアドバイスやその方法では上手くいかないよと言い切るだけの材料、だってその方面を必死で勉強してきた私ですから。 が、そこで無理に刺激を与えるのではなく、その場と受講者を信じてすこし我慢しました。
彼自身が自分で気づき変化する その時が来るのを待つ。
12時間(6時間×2回)の研修はスムーズに進みました。
この会社では、どうやら総体的に寡黙な働き者が多く、現場リーダーたちのグループ討議であってもワイワイがやがや…喧々諤々とはいきませんでした。
が、私の提案した問いかけや内容に対して、みな実直に受け止め、考え・発言しあうという相互理解のサイクルはゆるり~ぐるりと回っていきました。
自分の事、職場の事、部下の事 を語り合いました
時折、場を乱すような発言(それが言える空気になっていることが重要)があっても、初日に『経験や価値観の違い』の重要性をTAの概念を通じて学んでいた彼らには、それを受け止めるだけの気持ちの余裕ができているようにみえました。
“違いに目を向けてみよう”とする意識です
私は講座の中で幾度か「世間でいう仲良しと職場で協働できる仲間では、コミュニケーションの質と量が異なる」ことを具体的な例を使って伝えました(今回はストロークというTA用語は使いませんでした)。
業務上のコミュニケーションは、人間としての対等感とやり取りの質量で決まるのだよ
I’m OK You are OK , そしてWE ARE OK
研修時間は11時間30分済み、残り30分で総括。
皆それぞれに変化が起こっていました。言い方を変える。考え方を変える。
そしてそう変えた時に感じる感じ方が変わっていたことに気づく。
で、私が待った例の彼は、最後にこう言ったのです。
「最初の時に、僕は○○と言いました。しかし、みんなも苦労していて、日ごろの工夫や意見を聞いていて、やり方はいろいろあることがわかったし、もっと違うやり方もアリかなと今は思っています。」
言葉の勢いは強く、顔はまっすぐ姿勢は良く
よっしゃ~~~~~(心でガッツポーズなわたし)
ここから先は彼自身がやれる範囲で工夫していけばよいのです。またその気が本気であれば、部下との関わり方やその態度・姿勢・言葉遣いなど、変えるためのツールやフレームワークは、いくらでも探せる能力を持っている人です。
実は、初日、緊張気味の受講生にエールを送ったある会社側幹部の言葉はこうでした。
「先生には失礼だが、研修を12時間受けたからといってすぐに上手くやれる、現場が変わるとは思っていません。今回は動機づけだけです。しかし、そこが重要なんです。」
目的を達成するために、さまざまなレベル・層で契約を交わし、そしてそれを相互尊重しながら具体的な形で活動する。そして一緒に結果をだす。自身と仲間と職場のより良い変化・発展の為に。
こういうのって、TAを実践する講師が行なう企業研修ではよくあるアルアル場面です。(*^^*)
また次回…