こんにちは、青沼です。前回の続きです。
テーマにあるように、「毎年ここ20年、4月に私が行く企業の人材教育訓練の現場について」綴っています。
前回の最後に話した「新入社員のいる研修室」で起こる、さまざまな〖変化とその背景〗にフォーカスして、2回に分けてお話しします。
私の仕事は研修講師です( それ、もう知ってるし…@一人つっこみ )
大中小、多くの企業様からお声をかけていただき、人材の育成/教育指導に出向くのが仕事です。
毎年4月は、数社の新入社員の皆さんと過ごします。社内研修という位置づけで外部講師という立場です。
研修のタイトルはいろいろですが、多くは「対人関係力強化○○研修」とか「顧客満足コミュニケーション研修」とか……1日のみの場合から、月~金で1週間という連続という場合もあります。
数年前までは、入社式直ぐから2週間以上一緒に活動するというような形式のものにも対応していました。
で、ファーストコンタクトは皆さん一様にこんな感じ
♦ 表情が硬くて暗~い (だってさっき、社長講話で厳しいこと言われたし@研修生心の声)
♦ ハラハラどきどき落ち着かない(この先生、声がでかいな……これから何をやらされるのか?)
♦ もごもごしてる (だいたい、ずっと座ってるのがまず無理やん、、、涙)
期待<不安×不安 で頭がパンパン! はい、どこでもそういう感じ。
一見落ち着いて見えても、後で本音を語ると、だいたいみんなそういう感じ。
で、この状態の教育の場に多様なTA概念を導入し、彼らにもそれを使ってもらうとあら不思議!
彼らは、朝露を飲み込んだ初春のアスパラガスのように、ぐんぐんニョキニョキ~っと「伸びてくる」のです。そう、いろいろな角度でグイっグイっと、力強くそしてしなやかに♪
専門的に言うと、組織の中の成人教育における成長としての〖変化・変容〗が、通常の成人教育の現場よりもダントツに早く起こるのが新入社員研修と呼ばれる現場で、これはやはり人材の特性によるところが大きい。彼らは若いし思考が柔軟だし行動に瞬発力があるから、変化も早いし
伸びしろもいっぱいある(笑)。
で、この業界のなかで特にこの分野が面白いと感じることができるので、なかなか現場を離れられないのですね、私。
もちろん、その伸びしろの幅や伸びるタイミング、そして伸び方は千差万別ですし、研修の場という制限もあるなかでの“伸び率”です。が、彼らが“一皮むける”(神戸大学金井教授談)きっかけになる背景・文脈は何か? について、一度整理してみます。
変化のきっかけになる背景・文脈は、
2 研修室のなかで、自分の存在が“自分で”確認できたと感じた時 とか、
3 経験したことを本気で伝えて、それが受け入れられた時 とか、
4 相手に共感した時 とか、
5 窮地に立った時 とかです。
ここから、一人の研修生サトウさん(仮名)の体験を通して見てみましょう。
1 やったことがないことを、エイやっ! とやってみた時
社長講話、みんなが緊張したあと休憩を挟み、次の講座になった。
人材教育のプロだという外部講師が登場したら、その場の空気がガラッと変わった。
ピシッとした態度だが、温和な笑顔で何やら熱心に話し始める。
〖研修のグランドルール〗というものをパワポで示して説明される。
ふむふむ、そうか……なるほど、俺らは成人だな、確かに。お互いに学び合うためのルール。
・研修室で知らない事があっても失敗しても全然平気。それは頑張っている証拠だから!
→なるほど、知らないから習うんだもんな!
・とにかく、前のめりでやってみよう →……だな、給料も出てることだし
・ミスしても意見が違っても相互尊重が大切 →そうだそうだ、多様性の時代なんだ
・質問は何でも有意義 →いや~そう考えてもらえるとこっちはホッとするなー
・自分で自分をコントロールしよう →ま、当然か。今日から組織人だもんな! 俺ら
そういうルールをお互いに決めた後、あるテーマについて2人組で話し合い、その後で発表する流れになった。(それがお前のやり方か~~~@サトウ君心の声)
隣のMさんがすぐに「サトウ君、話してね!」と勝手に俺に振る。一瞬迷ったけれど、よし、やるか! と決めた。大学の時なら絶対にやらない。けど、さっきやるってルールで決めたからな……。
で、2人で話しあったことを簡単にまとめて発表した。
講師の反応:「笑顔×頷き×拍手」 でこれに周囲も追従→拍手?照れるじゃん!やめて~
え? こんな感じでいいの? 子どもみたいにドキドキしたがやれたな、自分でも意外だ。
おまけに「サトウ君、ありがとう。まとめるの上手いね~」なんて言われてしまった。なんだか、めちゃくちゃうれしいしテンションが上がってる。
※あとで、これが〖肯定的な条件つきストローク〗ということを学んだ。ストローク交換することで、人間の基本的欲求(Hunger)が満たされる。いいもんだな~条件つきも。自分が発表したから来た結果のストロークだもんな…
2 研修室のなかで、自分の存在が“自分で”確認できたと感じた時
1講義が終わり、休憩時間になった。まだ同期の顔も名前も一致しない。携帯でも触って……と思っていたら、次の瞬間、あの講師が近づいてきて、「サトウさん、さっきの発表、声がしっかり出ていて聞き取りやすく、良い意見がコンパクトにまとめられていたね~」
名前を呼んで褒めてくれた。すると隣のMさんも乗っかってきて「はい、ありがとうございます。」っていう調子の良さ(いや、俺に言ってるし!)。
で、3人でほんの2,3分立ち話をしただけなんだが、なんだか昔からこの講師の事をよく知っているような安心感が湧いてきてる。不思議だ。
良く見ると、講師はみんなの名前を呼んで話しかけていて、みんな嬉しそうだ。グンと近づいた感覚がでる。でそこにいる者同士も笑顔だ……
そりゃあそうだよな、 “研修生一同”じゃなく、それぞれの名前や特徴で分かってもらえるのが一番うれしい。そういうのって大事なんだな……やっぱ。
おれも単に「せんせい」じゃなく、青沼講師って呼ぶことにしよう!
3 経験したことを本気で伝えて、それが受け入れられた時
研修はテンポよくどんどん進んでいく。講義と実習は連動していて、各項目には課題や目標があるから、今自分は何をしたらよいのかとか、何を求められているのかが分かりやすいし、その時その時の自分の課題も設定しながら進んでいくから、なかなか気は抜けない。
最初は何をやらされるのかと不安でドキドキしたけど、人間関係やコミュニケーションの事を学ぶのには、体験学習という方法がいいってことがこの実習を通じて“体験的に”分かってきてる。
休憩時間、スマホをいじらなくなってる。
ある実習で、60分間グループ討議をした。いくつかの設問の解を全員の合意で決定する。
メンバーと、喧々諤々制限時間一杯いっぱい話し合った。めちゃくちゃ大変だった。ホントは仲良くなりたいから言い合いになりたくない。何が一番大変かと言うと、この実習のルールが[簡単に妥協せず、本当に納得したら合意する]というものだったからだ。ジャンケンで決めず、多数決でもない決め方、コンセンサスを取るってやつ。
正直マスクしながらってのが一番大変だったけど(笑)、すごく沢山議論した。60分経ったあとは、みんなへとへとだった。それでも合意に至らない設問もあった。
で、この実習後、講師から示される模範的な解答がある。解答が分かった時のあの瞬間はわ~~!! ってなるし、やっぱ俺の言った通りじゃん! って、みんなで子どもみたいになる。その後、更に60分の〖振り返り〗を行い、ここで一気にクールダウンしていく。
3つ目の実習でだんだん慣れてきたせいか、はたまた、こういう体験を重ねてきて〖仲間意識〗ができてきたせいか、振り返りの時間はみな、わりと上手く話せて聴けるようになってきている。うんうん、そうだよねって。もちろん、人によっては他人を非難するような発言も時々あるけど、まあ、それはそれ。
“他人の事じゃなく自分の事”を正直に伝えることや、自分がその時どう感じたかということ、つまり感情に焦点を当てて話すこと(自己開示というのだそうな)を講師から教えてもらっているからだんだんそういう話ぶりになっていく。
で、この実習で自分が感じたこと考えていたことを、AKYで勇気を出して伝えてみた。少し言いにくいことも、みんなのことを信じて。
「あのさ、敢えて空気読まずに(AKYで)言うけど、実はあの時さ……」と。そしたらなんと、他の数人もそこに気づいていて、同じことを考えていたってことが分かって、この振り返りは、更にお互いの一歩深い部分にまで踏み込むことができた。
もちろん反対の事を考えていたやつもいて、それはそれでみんながなるほどな~~ってなった。で、その違いを受け入れて1つのチームになった感があったのは、すごくいい体験だった。なんだか不思議とすっきりしていて、自分たちで出した解が間違っていてもそれが自己責任ってやつだぜ! 次は絶対正解してやるぞ! ていうような、モチベーションが上がっていく感じで、グループが一つにまとまっていた。
この体験学習というのは、実習が始まる前に聞いていた〖コルブの経験学習サイクル〗っていう学習モデルに則って行われる。
グループメンバーが自分たちでやったこと(経験)を振り返り(内省・省察)、そこに意味づけや概念付けをして(概念化)、で、もう1回やってみる(行動/再経験)ことで、自走して学習を進めていけるんだという体験。
これを何度か繰り返して経験したことに途中でみんなが気づいて、なんか自然に合点していた。これはいいな! って。 失敗した時がイタけど、結構これがハマる!(でもって、これって大体失敗するような仕掛けがある。……これがお前のやり口かぁ~だ 苦笑)
現場に配属されたら、こんなに上手くはいかないだろうけど、この手ごたえはしっかり掴んでおきたいと思う。講師が言っていた[自律的に自走する]ってこういうことなんだと。
グループメンバーのことも良く分かってきた。
どんな価値観をもってどこにこだわってるとかも、話し合って、聴きあっていくと理解できるようになる。理解はするけど俺との違いもはっきりしてくるから、意見がぶつかっててもなんか、受け入れられるというか、いやな感じはしなくなる。
不思議だな、同期って。
自分の席にもなじんできたし、この研修室の居心地がどんどん良くなっていく…
つづく