「OriHime」をご存知でしょうか?
「OriHime」はロボットの名前です。
「OriHime」は、AI搭載の自律型のロボットではありません。人が操作をするロボットです。
「OriHime」は、メディアで取り上げられることも多くなり、その結果私たちが目にする機会も増えました。
夏に行われたオリ・パラでは、受け付けや案内役をして働いていたことが話題になりました。
現在、東京日本橋にはOriHimeが働く「分身ロボットカフェDAWN ver.β」が常設店として作られています。
◆OriHimeとは
OriHimeは「分身」です。
病気や身体の問題によって、外に出られない。
行きたいところに行けない。
または、介護や子育て、入院などによってお世話をするために自分の時間が取れない。
どこかに行きたいけれど、行くことができない人のための「もう一つの身体」、それが OriHime です。
OriHimeは、距離も障がいも乗り越えるためその人の分身として生まれたロボットです。
分身ロボットOriHimeは、これまでの常識も乗り越えてしまいます。
そんなOriHimeを開発したのは、 吉藤オリィ(吉藤健太郎)さんです。
「いきなりバイオテクノロジー的な自分と同じコピーをつくることはできないけど、遠隔操作ができるような分身をつくるようなロボットはできるんじゃないか」
「病気で会社のオフィスワークに参加できないという人が、ベッドの上とか自宅からスマホやPCを使って、オフィスに置いてあるこのロボットを通して様子を見たり、話を聞いたり、目の前にいる人に話しかけたり、そういうことができるロボット」
このような想いから、開発されました。
【参考・引用】
JK RADIO TOKYO UNITED - THE HIDDEN STORY
好書好日 - インタビュー 「孤独を解消する」分身ロボット開発者・吉藤オリィさんインタビュー 世の中はまだ、何も完成されていないから
オリィ研究所 公式HP https://orylab.com/
幼少期、身体が弱かったオリィさんは不登校になり、中2くらいまで学校に行けない生活を送っていました。
友人が学校の宿題とかノートを友達が持ってきてくれても、自分がクラスメートである実感は得られなかった。所属感を得られないことからの孤独感を味わっていました。
そんな生活していく中で、オリィさんは、「何かに参加しようと思ったら、そこに身体を運んでいなければならない」ということを意識するようになりました。
離れた場所にいる人同士が、同じ時間を過ごすにはどうすればいいのか?
オリィさんは考えに考えた末、「心を運ぶようなモビリティ。心の乗り物のようなもの」を作れないか、と思い至りました。
心を運べれば、そこにいる友人たちと自分も一緒にいられる、そして友人たちも一緒にいると感じてもらえる。
そんな「分身」をつくりたいと考え、自分で作り始めます。
それから多くの方の支援を得て、2015年年7月7日、『OriHime』はリリースされます。
OriHimeは「孤独を解消する」ロボットとも言われています。
一人でいると「孤独」になります。
誰とも接しない生活は、精神的に好ましいものではなく、病気の元でもあり、死に至る可能性もあります。
オリィさんは自らの引きこもり体験と、病気や障がいを持っている方との対話を重ねることで、OriHime に、外出困難な人が外の世界とコミュニケーションをとれる、つまり「孤独を解消する」ことができるロボット、という役割を与えました。
OriHime は、ロボット自体が主役なのではなく「人と人」をつなぐロボット(ツール)として存在しているのです。
◆OriHimeの存在意義
コロナ禍での外出制限は、今までの常識を全く違うものに変えてしまいました。
人と会うことは日常であり、私たちにとって当たり前のことでした。
だれもそれを疑問に思ったり、不思議に感じたりすることはなかったでしょう。
ところが、コロナによってその常識はあっという間に崩れ、日常の風景ががらりと変わってしまいました。
人と会うことが制限され、仕事もテレワークに変わり、外食も規制され、ワイワイ、がやがやと外での飲食を楽しむ機会が一気に減ってしまいました。
結婚式やお葬式といった人生の大切な節目の行事や、修学旅行や運動会などの学校行事さえも中止になってしまいました。
その結果、社会生活は大きく変わり、新たな人間関係、つながりを持つ方法としてオンラインコミュニケーションツールである「zoom」の利用が増えました。
zoom は、言わばテレビ会議のような仕組みです。
全員の顔が見えて、同時に通話ができる。
このシステムがあったことで、災厄の中でも多くの人が救われましたね。
ただ、zoomを利用して、顔を見ながら話をしても、実際に会ったときと同じように「ここにいる」という感覚は持てているでしょうか?
直接会わなくても画面で見えていますから、声のトーンや表情からある程度のことはつかめます。
ただ、肌感覚で、相手が目の前にいると感じられる人はどれくらいいるでしょうか?
OriHimeは分身ロボットです。
顔に表情はありません。
zoomと比べると、顔が見えないですから相手のことがわからないようにも思われるかもしれません。
ですが、不思議なことに、OriHimeを通して操作している人(「パイロット」と言います)と話していると、その人が目の前にいて話しをしているような気持ちになります。
どこか遠いところにいる人と話しているのではなく、目の前にいて話しをしているように感じられます。
表情は見えませんが、頭や手は簡単な動作ができます。
その動作が声のトーンと合わせると、無表情な顔に表情が浮かんできます。
一緒にその場に居るという空気感を体感することで、その場を共有した、一緒にいた、という幸福感に包まれます。
まさに分身としてそこにいるのです。
zoomでは自分も相手も、決められたカメラの視点でした相手を知ることはできません。
OriHimeは自分で顔を上下左右に動かすことができるので、パイロットの意志で見たいものをみることができます。
言葉を発しなくても、手や顔を動かすことで、自分の気持ちを伝えられます。
また、OriHime と会話では、その動作を見て言葉プラスの非言語を感じることで、その人の「存在」を感じます。
誰かと話しをするとき、私達は言葉だけでなく、表情や声のトーン、身振り手振りなどたくさんの情報を処理しています。
OriHimeがそこにいることで、まさに「そこにいる」人と話しができるのです。
この感覚は OriHime と会話をした人でないとなかなか伝わりません。
難しいですね。
◆OriHimeに興味を持った理由
私がOriHimeを最初に知ったのは、知人との会話からでした。
「ロボットで家から出られないALSの患者さんを支援するロボットがある」
そんな話だったように記憶しています。
家から出られない人を支援するってどういうこと? という疑問が興味に変わりました。
私は子どもの頃、近所に身体がだんだん動かなくなってしまう病気にかかったおばさんがいて、そこで初めてALS病気の存在を知りました。
その後は、特にALSに関わることをなく過ごしてきましたが、知人からOriHimeの話を聴いたときに、昔の記憶がよみがえりました。
私の自我状態は、C(チャイルド)が恐怖とまではいかないまでも、未知の病気に対する不安を感じるとともに、未来に向かう希望に興味をそそられました。
そして、その話を聞いてすぐ、クラウドファンディングで「分身ロボットカフェ」を開催する、という話を知り、応援を決めました。
2018年障がい者週間(12月3日~9日)に合わせて11月26日から12月7日まで期間限定で、東京赤坂の日本財団ビルに分身ロボットが働くカフェ「分身ロボットカフェDAWN ver.β」が期間限定で開催されました。
ALSのような難病をかかえた患者さんや、ひとりでは外出困難な重度の障がいを持っている方が、遠隔で操作する分身ロボットで接客をする初めての試み、実験カフェが開かれたのです。
初めての試みゆえに、いろいろトラブルもありましたが、「パイロット」がその場にいるかのように会話ができることに、一緒に行った友人も驚き、そして楽しい時間を過ごせました。
◆OriHimeが私に与えたもの
OriHime と出会って、私は将来への漠然とした不安が解消されるような感覚を味わいました。
OriHime のパイロットの方たちと話をしていく中で、私は自分の準拠枠(思い込み)に気がつきました。
それは、パイロットの方たちは、お世話をされていることで満足していて、外で働きたい、何かをしたいということは考えていないのだという思い込みでした。
私は、I am OK, You are not OK の立場で、パイロットの方たちをディスカウントし、救助者の立場で見ていました。
当時は、病気で動けない方は、お世話をしてもらって「生きていること」で十分満足しているのだと思っていました。
オリィさんの秘書でもあった番田雄太さんのメッセージを聞く機会がありました。
番田さんは4歳で頸髄損傷になり20年以上寝たきりでしたが、自分にできることを探したそうです。顎でパソコンを操作し、何百人という方にメールを送って、自分にできることを連絡していました。
そして、番田さんはオリィさんと出会い、お互いの考えに共感しOriHimeの開発にも携わり、講演会にも出ていました。
その番田さんのメッセージが、私の殻を砕いてくれました。
身体が不自由なだけで、意識は健常者と何ら変わりがないんだという、心からのメッセージに涙が溢れました。
そのメッセージには、確固たる意識を持って自分ができることをする、という熱いエネルギーがありました。
何かをしたい、誰かの役に立ちたい、自分にできることをしたい、そんな意欲を持っていても、身体が動かない。
これはどれだけ苦痛なことでしょう。
身体が動かないとわかった時に、私であれば絶望感と罪悪感から心が折れてしまうのではないかと思います。
そんな不安が、今、OriHimeによって一つの解決策、希望の光が与えられました。
はっきり意識していたわけではないけれど、TVなどで寝たきりでお世話をされている方の映像を見ると、私がその立場になったら、周りに負担を強いている罪悪感に心が締め付けられる思いを持っていました。
OriHimeと出会って、パイロットの方と話をして、働けることの喜びが、OriHimeの表情から活き活きと感じられました。
TAの目的は「自律性を高め自分らしく生きること」です。
OriHimeとともに生きることは、自律性を高めることを補い、自分らしく生きる道にひとつの光になる可能性があるということです。
技術は人にとって代わるものではなく、人を活かすもの。
まだまだこれからITは進化し、人の成長をより高度に補ってくれるかもしれません。
その未来を感じられる今、「今ここ」でしっかり生きようという気持ちも生まれてきます。