こんにちは! 青沼です。今週は私の当番です。
私は国内では、キャリアコンサルタントという国家資格を持っています。
今回のシリーズは、キャリアコンサルタントの資格を持っているTA Educator(TAを活用して教育に邁進する人)の青沼がいろいろ勝手に書いていきます。
今回は、キャリア心理学者のマーク・サビカス(Mark L. Savickas)という人の考え方や理論体系を、TAの学習に結び付けたらどうなるのか? についてお話しします。
キャリアの発達に関する考え方・理論が発展し始めたのは、本格的には20世紀半ばからです。案外歴史の浅い学問だと思いますが、特に日本での[キャリア]に関する認知度・理解度は低かったようです。
しかし、キャリアカウンセラーの資格を取るときに学ぶ理論家は結構多くいて、それぞれに特徴のある概念を強調し理論を展開しています。
今回は、今私自身が個人的に興味を持っているマーク・サビカスの概念を、TAコミュニティの学習にどう活かすか……を綴ってみようと思います。
で、キーワードは〖キャリア・ストーリー〗
キャリア・ストーリーとは、
“昨日の自分”がどのようにして“今日の自分”になったのか?
そして、どのように“明日の自分”になっていくのか?を説明するもの。
私達個々人が、人生の中で直面するその時その時のキャリアにおける発達課題や、職業上のトランジション(転機、節目、移行)などについて自分語りをするときがあります。その語りの中には、「なぜそのような行動をとったのか?」とか「その行動をとることの意味」を考える、という行為が必ず含まれてきます。
自分史であるキャリア・ストーリーを語ることが、その人自身にとって「自分/個人にとっての意味を作りだし、これからの将来を形作るための能動的な試み」になるという訳です。
私は、職業に関する相談を受けることが仕事上、とてもよくあります。そんな中、相談者が語る色々な物語の中には、いくつかの、言ってみれば鉱脈のような、現在の目標に繋がっていたり、次の行動に出ることに関連していく内容が含まれていたりします。つまり「今の自分が聞く必要がある」ストーリーを語ってくれることがあるのです。
この時語り手は、過去の出来事が現在の選択を支持しているように語ることがあるし、将来の目標に向かって変化する基礎の部分に何らかの影響を与えるように発言することがあります。
このあたりのことを専門的に言うと、単に過去を思い出すのではなく、「再構築する」(Josseison,2000)のだとサビカスは示唆しています。これは“物語的真実”と呼ばれています。
この再構築したものを保有することによって、もし個人が急激な変化に直面したときでも、その人は柔軟性と一貫性を保つことができるのだそうです。
そしてこのキャリア・ストーリーの中で繰り返し語られるものが、その人個人の「ライフ・テーマ」となり、際立った独自性に繋がっていくのです。
ふむふむ、なるほどね
というような感じで、サビカスの主張する理論を、ぼんやりと理解していた私です。
まあ、昔から私は、自分が興味を持っている相手(友人、家族、契約先企業の社長さんや社員さんやTA仲間)から、その人が歩んできたキャリア・ストーリーを語ってもらうのが好きでした。飲めないけど飲みの席に付き合う目的もそこにあったようなものです。
司会者という立場でも、この「人のキャリアについての興味関心」は有効に働きましたよ、インタビューが上手いんです、私。この時点でも体験的に分かっていた気もします。
さて、「キャリア・ストーリー」の有効性については大枠を掴んでもらえましたでしょうか?
次は、話をTAコミュニティに移します。
2019年5月、私ととも子理事は、ニュージーランドで開催されたTAのワークショップに参加しました。
ニュージーランド北部にある町の、教会のリトリートに使われる古いけれど緑がいっぱいの素晴らしい環境の会場で、TAの先生や仲間と数日を過ごしました。
数日間の集中的なTAの学びは、とても素敵な体験でした。
得るものは沢山ありましたが、中でも私の心になぜか“引っかかった”経験が一つ。
それは、[夜の自由時間に、参加者が好き好きに集まり、自身のTA史を語った]ことでした。寝っ転がっている人もいるし、暖炉の火の世話に必死になっている人もいて、とても自由なリビングの空間で、それが始まるのです。
なぜ、引っかかった経験と表現したかと言うと、英会話に全く自信のない私は、通訳を雇っていたのですが、夜は契約外。勇気を出して参加したのですが……
そこで、生で語られる仲間のTA物語の半分も理解することができませんでした。こういう時、本当に悲しくなります……
で、語られた内容は半分も分からなかったけれど、その分観察から、はっきりと見て取れたことがありました。
それが、〖TAキャリア・ストーリー〗の効果性 ということ。
語り手はみな、だいたい最初は恥ずかしそうに話し始めるのです。が、自分語りが進むにつれて、誰の顔も、どんどん輝きだしエネルギーが満ちてきます。
もちろん途中では、内容によっては挫折感を滲ませた表情や声があらわれたり、驚きなど感傷的になったりします。そして語りの後半になると、語り手の声にはグンと勢いがつき声量も上がり、表情にも生き生きとしたエネルギーが表出してくるのです。
もちろん聞き手側も、リラックスしながらも“尊敬と共感”の想いで聞いています。その場で行われた上質なストローク交換が、その場に居る人皆を幸せにしていったのだと思います。本当は昼間のセッションで疲れているのに、別腹、じゃなくて別ストロークだね……
帰国してから、あの時間と場のことを振り返えると、サビカスのキャリア・ストーリーの概念がヒットし、私の心に深く留まった、ということだと思います。
そしてその年の夏、弊会では〖夏合宿〗と題して、1泊2日の勉強会を決行しました。
(まだCovid-19の存在など全く知らず、のんきに楽しく深夜まで、膝突き合わせて…
ああ、懐かしい~~)
その合宿で、ニュージーランドのワークショップでの光景を再現してみよう!ということになり、参加者の数名が、TA自分史を、その場に居た仲間に関連させつつ話をしてくれました。
短い時間でしたが楽しかったですね、本当に(だって、日本語だしね~~~(笑))。
そして、楽しかっただけではないのですよ!!
そもそも合宿の目的の一つは、[CTA試験に向けた対策]を自分たちで作り学び合う!というものでした。参加者が自らTA自分史を語り、互いに聴き合ったことによって、その目的にマッチした安心安全な場の醸成がなされたという効果を、実体験からの手ごたえとして掴むことができたのは大きな収穫でした。
“ああ、キャリア・ストーリーを語る効果性って、やっぱりこういうことなんだなあ……”という納得感。サビカスさん、ありがと~~~!!
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2019年冬から始まった、新型コロナウイルスのパンデミックは世界を一変し、今日まで私達を翻弄し続けています。
悲しいなあ……悔しいなあ……
でも今は辛抱だね! と、理事会で、そして講座で参加者の皆さんと励まし合ってきました。
しか~~~し、
TA Shuharism研究会は〖コロナでTAの学びを止めるな!〗が合言葉。
今年から、新しい企画『世界のTA窓』を展開しています。
オンライン化が進むメリットの一つが、世界にいる活躍中のTA人をオンラインで招聘することができること。
ちょうど私達は〖Educational Transactional Analysis〗という本の日本語訳を出版するプロジェクトが継続中であることもあって、教育分野の著者たちに声をかけて、彼らの『TAキャリア・ストーリー』とそこに記した彼らの主張や想いを熱く語ってもらおう!という企画が生まれました。
もうすでにご参加くださった皆さん、ありがとうございます。
このTA窓『○○先生、大いに語る』という企画は、今年5月からスタートして既に3回が無事に終了しています。
初回は、南アフリカの教育のTSTA(教授クラス会員)Karen Plat先生
2回目は、イギリスの教育分野の大御所 TSTA Trudi Newton先生
更に8月に実施したオンライン夏合宿のなかでは、なんと心理療法の大家 Mary Cox先生がサプライズ登壇し3時間熱く語ってくださいました。
そこで、凄いことが起こったぞ~と私は一人ほくそ笑んでいるのです。
これって、サビカスさんがそこに参加していたら、「ほらね、私の言うとおりでしょ!!」と鼻をふんふんと鳴らす……くらいのことじゃないかと思うのです。
講師陣の一人、Mary Cox先生の、そのTAキャリア・ストーリーの語りのプロセスで[キャリアの共構築]が起こったのだろうと、私は確信しているのです。
少し説明すると……
Mary Cox先生はご高齢です。
2009年にはセラピストとしての活動を停止して現在悠々自適の生活です。もとはヨーロッパTA協会の会長も務められた方ですが、今は一会員。
セラピストという責任のある職務ですから、活動停止の判断は、統合された〈Adult〉の判断だったのだろうと推測します。
ご自身の健康の問題もあったそうですが、現在はお元気そのもの。
ご主人の介護とご自身のことを大切にした時間を過ごされているCox先生に、毎月オンラインでつながっている友人のともこ理事が声をかけたのが登壇のきっかけでした。
Cox先生が現役時代に書かれた自我状態の構造と機能の分析に関するTAジャーナル掲載論文には、分野を問わず皆が関心を持っていましたから、参加者は先生の登壇が待ち遠しかったと思います。
また、ともこ理事からの報告では、Cox先生は打ち合わせ時からとてもパワフルで、この話に“ノリノリ”のご様子。私達の質問に全て応えられるようにと、原稿まで準備されていたそうです。
そして当日、
初めてお会いするCox先生はエレガントで、ユーモアも持ち合わせていて、そしてパワフルでした。すてき!
そこで語られた「TAキャリア・ストーリー」の物語的真実(narrative truth)は……
元々は教師であったこと
TAとの出会いは、1冊の本から
トレーナーが心理療法分野だったから、自分もセラピストにキャリアチェンジしたこと
そして、沢山のクライアントとの仕事の、内的なストローク(成功体験や失敗体験)
楽観的でTAが大好きだということ
そしてそして、老年期を迎えた今の自分について
この自分語りの後で、TAジャーナル掲載論文の内容に関して、事前に募った質問に準じて説明してくれたのですが、これが実にわかり易かった。
言葉を選ばずに言うと、老年期のおばあさんから教えてもらったんじゃなく、現役の先生に習った感じ!
3時間ほぼぶっ続けで、ご自身のTA史を語り、自我状態の概念に関する自論を力説し、参加者との交流を楽しんだCox先生。
ご本人の満足度も相当だったようです。
もちろん打ち合わせの時から「皆と語れるのはうれしい」「もし積み残したら、次もやるわよ」なんていう発言がポンポン出ていたようですが、、、(この時点から覚醒が始まっていたかな…笑)
印象に残ったのは、「私は、元は教師だった」を3回口にしたこと
ここ、重要ポイント
キャリア・ストーリーとは、
“昨日の自分”がどのようにして“今日の自分”になったのか?
そして、どのように“明日の自分”になっていくのか?を説明するもの。
今度お会いしたら、訊ねてみようと思うのです。
「Cox先生、これからどうなさいますか?」
「もう少し、私達にTAを教えてくださいませんか? そして一緒にもっと語りませんか?」
実は、もう私の中で続きがあるのですけど……むふふ、これはまたの機会に!