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私の4月の現場風景 その3 

第八十回:青沼ますみ

こんにちは、青沼です。

今回も「毎年ここ20年、4月に私が行く企業の人材教育訓練の現場について」綴っています。そして前回の続きで最終話です。

前回は、「新入社員と過ごす研修室」で起こる、さまざまな〖変化とその背景〗にフォーカスしてお伝えしました。

今回はまとめという感じで、その後彼らの成長というか組織の中での活躍にも触れて、もう少し“実際のところ……”で綴り、また「研修運営側」のことにも少し話題を振ってみようと思います。

空想の人物が数人登場します。前回登場のサトウさんもです。

 

★ 仲間の力で伸びた! 

どの企業もそうでしょうが、採用者の学歴には幅があります。教育機関で何をどんなふうに学習してきたのかについては、「何を」の部分はあまり影響なく、どちらかと言うと「どう学んできたのか?」「どのような時間を過ごしてきたのか?」の差が研修室の中での差に繋がってくることは間違いないことです。

・専門学校出身スズキさん(仮名)は、同期の中で一番年齢が若く元気はつらつ、同期の皆からも愛される明るいキャラで人気者ですが、最終日の一言で周囲がし~んとなってしまいました。

「私は同期の中で年齢も一番下で、今のスキルも全然なくて、これで配属になっても職場で何もできないのではないかと思うと、胸がどきどきして不安になるんです……」 

この言葉に、「え~~、そうなの???」「あんなにいつも元気なのに……」 

研修後半あと2、3日で配属というところで、彼女の本音が出たことは幸いでした。

研修室に居るスズキさんは、いつも明るく研修に取り組んでおり、一見しただけではそのような引け目を感じている様子はなかったからです。

私は、彼女にかける言葉の数々をぐっと飲みこみました。ここは1つ同期に任せてみようか…

「誰か、彼女に意見がある人はいますか?」(惜しみなくストロークあげてくださ~~い) 

すると、少し間をおいて、数人が手を挙げて口々に話しだしました。

「僕も、○○に自信がないから学歴が違っても不安点は一緒だよ」 

(講師心の声;一番高学歴のあんたでもだよね……)

「私は一番年長者だから、反対に若いってうらやましい……」 

(そうだった、君は院卒で2浪してたっけ……)

「同じ部署になるから、一緒にやればいいさ、頑張っていこうよ!」 

(お~~、これぞ同期、これぞ青春だ)

「人前で自分の弱いところを見せられる強さがあるんだね、うらやましい」 

(なんて、すばらしいリフレーミング、君はプロ並みだ!)

 

鈴木さんは、発言の数だけどんどん笑顔になり、もともとの彼女がもつ一番の武器、屈託のない笑顔をあっという間に取り戻していました。

仲間の力って最高~~~♪

Eric Berneがストローク概念を生み出した背景に、こういう考え方を残しています。

私たち人間は、生きていくうえで3つの基本的欲求を持っている。それは飢餓(Hunger)と表現し得るもので、刺激飢餓、認知と承認の飢餓、そして構造飢餓(時間を構造化すること)である。 

―つまり、最初の2つの飢餓/欲求がストロークを欲する源で、人間はみな飢餓状態では生きていけない。だから人は人と触れ合い過ごそうとするし、一定の決まった品質のストロークを手に入れるために、無意識に時間を構造化する。という訳です。

日本は終身雇用型社会が基礎をなし、終身…の概念が根強く残っていますから、企業と個人の関係は強く相互依存型です。社会経験のない学卒者を大量採用し、企業の中で教育をするのが慣習。

バーンの考え方でいくと、組織に属する者はみなその組織の仲間からの関わりを求め、自分の存在を認めてもらいたいし、がんばりを承認してもらいたい。

となれば、仲間から直接鈴木さんに渡されたストロークは、講師が口にするお決まりのセリフよりも何千倍も品質の高いストロークになるに違いないのです。

という訳で、スズキさんは同期とともに、意気揚々と配属先に赴任していきましたとさ、

めでたしめでたし!(^^)!

 

★ 小さなステップで伸びた! 

キリュウさんは、小柄で細くて、なんだか元気のない女性でした。

グループ討議では彼女の声が小さすぎるので、メンバーは彼女が発言する番になるとぐっと前かがみになって耳をそばだてる。そうすると一層本人は、その圧を感じてちじこまってしまう……さあ、困った、困った!

更には、全てに対して自信のなさオーラが、体中から湧き出てしまっていて、その存在は今にも消えそう…

そういう時の秘策。

こちらは敢えてゆっくりと傍に近づき、彼女の顔を笑顔でぐっと見ながら、

(周囲も、ピンと緊張)

「背骨をまっすぐにしてみようか!声が出るよ。」と語り掛け、左手を彼女の方に置き、右手の手のひらを背骨の中心部分にまっすぐに当てて、背骨に意識を向けさせたのであ~る。

彼女は「はい」と小さく返事をして、背骨は直ぐにシュッと伸びたので

「このままで、今の倍、声を出してみようか!声が前に出るよ。」と、講師の声もパリッと大きくしていくと、それにつられて彼女の声も前に飛び、……

という具合で、小さなスッテプを細かく踏みながら修正をかけていく。

ホントなんですよ、皆さん。背骨がしゃんと立っていないと、いいお声が出ませんのよ。

声帯は楽器ですから、正しい持ち方をしないと、ひゅる~とへなちょこな音しかでてこない。

ニュースに出ているアナウンサーはみな姿勢が良いでしょう?……あれです、あれ。

キリュウさんは、もともと人前で発言するのがちょ~~苦手な内向タイプです。初日から元気ハツラツな外向タイプの同期に圧倒されまくってしまっていたようです。

が、一つ一つ丁寧に細かく指導すると、一つ一つ真面目に従ってやってくれ、あっという間にプレゼンが上手くなっていくもんだから、こちらもうれしくなってきます。

だから、できたらめいっぱい褒める。これホント!

また、座っていても習ったように同じ姿勢でしゃんと発言するので、全体の印象がグッと上がり、なんだか自信のある発言のように聞こえ、グループメンバーも「フムフム、なるほど」となってきて、となると更に本人は自信がついた様子で、、、

最終の体験学習では、恥ずかしがりながらも前向きにグループディスカッションに参加している姿に、いたく感動しました。 あ~~、最初から頭ごなしにきつく指導しなくて良かった~~~巻。

人の成長は100人100様のスピードがあります。毎度この事例を思い出しては、現場に臨みます。

講師側が困った事象にぶつかった時、それは研修生の伸びしろを発見した時。

彼/彼女はどの発達段階に居るのか……と目を凝らして観察する必要があります。

そして、こちらがどの教育スタイルをとれば変化を促すことができるのか?

私のCPとNPを過剰な反応をAがしっかり制御してこそ、上記のような適切な刺激で関わってあげることができます。こちらも毎回が練習、100本ノックみたく……。

 

★ リーダーとなって伸びた! 

先般登場したサトウさんは、研修半ばまではすくすくグイグイ伸びました。

で、3つ目の体験学習では、自らリーダー役を買って出てやる気満々。

もともとのタイプは外向タイプですから、反応も早いし言葉もでる。よって、グループ実習などでも発言の“数”は十分にあり、仲間との関係作りも上手でしたから、少しこちらも期待していましたが……

ご想像のとおり、大失態をした!と本人の自己評価は赤点。

いえいえそれぐらいって感じで、こちらは毎年その光景を見ていて、“いや、そのミスはみんなが一回はやるミスだから”と言っても、当の本人は実習の結果が出せず、その原因は自分だと痛く落ち込んだのです。

実習後の振り返りで彼は、実際にその役にトライしたものだけが体験できるコミュニケーションスキルの難しさを内省しており、自分自身のアキレスとなり得るコミュニケーションスキルの弱点を理解した様子でした。

で、サトウさんは、どんな成長を遂げたのか?

サトウさんは、私の講座を受けた新人でもあり、また配属された新年度の新入社員に付いて指導ににあたる[教育担当者]という役割まで持った、職場の人財に変化を遂げています。

言うまでもなく、その実習でミスったから大成する訳ではないし、だれも調べていないので分かりません。

ただ言えるのは、彼がその時期に研修室で学んだことは、その場と人と事象にふさわしい契約の概念、尊重し合う対等感とは実際はどういうことで、それはどのようなコミュニケーションのスキルが必要なのか、誰もが組織員として尊重されることの重要性、誰もが自分で考え抜くことを自発的に覚え、仲間と自分を甘やかさずに大切に関わることで対話が生まれて、それはやがて組織の発展に繋がるのだということの基礎的理解です。

本当は、研究対象として彼らのその後を追ってみると、きっと楽しい結果になるのでしょうね……

★ そして、仕掛ける側も成長する! 

最後は、長きにわたって一緒に“研修を仕掛けてきた”運営側の成長について。

講師も含めてですが、人が成長する時って必ず面倒なことの時だと痛感します。

成人教育・自己計画学習の研究者であるアレン・タフは、

「学習は変化である。」といい、更に「成人は次の時に良く学ぶ;予期せぬことと計画外のこと、そして危機の時」と言ったそうです。

正しく、そうだったな……

この20年、研修の現場ではいろいろな出来事がありました。問題だと思うような悲しい・辛い・苦しいことも含めて、1冊本が書けるぐらいに。

で、ググっとメタ認知で客観的に見てみると、そういう計画外の予期せぬ出来事や危機的な状況の時こそ、研修チームと一体となって研修生の安全を図り現場をまとめてきましたし、それが私の〖講師力〗になり、研修チームの現場対応力になっていったことは間違いありません。

この暑い時期にピッタリの体育会系エピソード; 

ある会社は、研修期間中どの年度でも宿泊施設に何泊か泊り、全員で寝食を共にして同期の絆を作ってきました。私も同行したこともありました。

ある時の事。

その日は雨がずっと降っていたのですが、その日の研修プログラムは実施することに決定し、

午後からみな野外の活動を行いました。

雨ですからカッパをつけて、歩いたり時には走ったり……

若者ですから、そう苦になる活動レベルではなく、ワイワイガヤガヤの方が勝っていたかと思います。そして夕食後も体育館で人あばれ!

その時に、大柄な男性研修生が足のけいれん(要はこむら返りってやつです)を起こし、見る見るうちにそれが手にも広がり。。。

その時、彼は汗をいっぱいかいていました。

で、その状況から私は彼が「熱中症」を起こしているのではないかと思いつき、すぐさま救急車を呼び、病院搬送となりました。

時は4月、雨の午後、どちらかと言うと肌寒い日です。

誰が熱中症になんかなると思います???

でも彼は立派な熱中症だったのです。救急隊員の方、本当にありがとうございました。

原因は、昼間のカッパ!! 

しとしと降るので、彼は真面目に着用したまま活動していたんです。それでしこたま汗をかき、水分補給が足りず……疲れもあったと思いますが、本当にびっくりぽんな出来事でした。

これを学習した研修チームは、次の年からはプログラムが終わるたびに「はい、水分補給して下さ~~い」と叫ぶことしきり。(笑)

こんなことの積み重ねが、現場のバカ力じゃない、底力に変わっていくのです。

また研修室では、必ずスタッフが同席してくれていますが、私が急にコメントを求めるので、彼らは日に日にコメント力がついてきます。

数年ご一緒している若手人事マンは、今や私の代わりにPPT使って講義ができるほどです。いやこれホントに、マジな話。

何度も聞いてたら、そりゃそうか……爆笑

私は人材育成の場が大好きです。

人が、何かに気づき、それをマルっと受け入れ、自分でやり方を変えようとする。その時のぎくしゃく感も好きですし、上手くいったときの達成感たっぷりの表情・態度を彼らが体現するのをみるのが大好きです。

そろそろ、引退かなと思う時もありますが、まだまだやれるぞ!と勢いづく時もあって、微妙なお年頃になってきました。

が、とにかく一つ一つを楽しんで現場に立ちたいと思います。

だから、早くコロナが治まらないかな~~~~~~涙

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